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知床世界自然遺産 Q&A
しれとこ100平方メートル運動と年表
(協力 北海道新聞社)
しれとこ100平方メートル運動

しれとこ100平方メートル運動と森の危機
 知床半島は、秘境として全国に名を知られる一方で「保護か開発か」に揺れ続けた場所でもあった。大正・昭和の開拓、横断道路の着工、1970年代の「知床旅情」のヒットによる知床観光ブームで自然が蝕まれていく中、77年に網走管内斜里町による「しれとこ100平方メートル運動」がスタートし開発から自然保護への転機となった。離農跡地を募金で買い取り、植林で原生の森を復元するという計画はたちまち自然愛好家の共感を呼び全国的な運動として広がった。

 しかしこの再生活動の一方で、知床の森は危機的な状況に直面し続けた。象徴的な出来事は87年の林野庁による国有林の伐採だった。森の復元を目指す「しれとこ100平方メートル運動」の登録者は国の行為に反対し保護を訴える運動を行ったが、願いはかなわなず貴重な木が数多く切られた。伐採は阻止できなかったものの、この反対運動がきっかけで斜里町に自然保護派の午来昌町長が誕生、林野庁は知床の原生林伐採の全面禁止を打ち出すなど、知床の自然保護は大きく前進することとなった。

■運動の誕生
 斜里町岩尾別地区の離農跡地約180ヘクタールを100平方メートル8000円(一口)とする全国からの寄金で買い取り、土地の保全と植林による森の復元を目指したのが「しれとこ100平方メートル運動」だ。当時の藤谷豊・斜里町長が、新聞で紹介されたイギリスのナショナルトラスト運動と千葉県成田の一坪地主運動をヒントに発案した。
 対象地となった岩尾別地区は大正時代と戦後に入植が行われたが、やせた土地と厳しい気候は農業に適さず、60年代から離農者が増え続けた。残された開墾地は71年からの知床観光ブームに触発された道内外の不動産、観光開発業者が次々と買収。この状況に歯止めをかけ、乱開発を防ぐ切り札として同運動は始まった。買い上げた土地の所有権は町が持ち、運動の参加者は土地の移転登記も分筆もできず登録証が発行されるのみ。このような条件にも関わらず、「しれとこで夢を買いませんか」のキャッチフレーズに共鳴した道内外の自然愛好家や都会人らが次々と申し込み、参加者は同町の予想を超えるペースで増え続けた。77年からは毎年、買い取った土地で植樹を行い原生の森への復元は着実に進められた。

■国有林の伐採
 同運動による森の再生が行われていた86年、林野庁の北見営林支局(当時)が国有林の伐採計画を発表した。場所は同運動地に隣接する国立公園内(第3種特別地域)1700ヘクタールで、老齢木約8500−1万本を10年間で伐採し山の若返りを行うという内容だった。「100平方メートル運動」によって、知床の自然に全国の関心が集まっていた影響もあり、計画は自然保護団体などの猛反対で事業規模の縮小、伐採の凍結が検討されたが、翌87年、実行に移された。全国から自然保護グループや知床ファンの学生らが集結する中、樹齢200年以上のミズナラなど500本以上が伐採され、その周囲の「支障木」も数多く切られた。

 だが、この出来事を契機に知床の保護は進展する。伐採直後に行われた87年4月の町長選で保護を訴えた午来昌氏が伐採容認派の現職を破り初当選。午来町長の誕生で伐採は1年で終わった。林野庁は90年、知床半島の先端部分約3万5500ヘクタールを原生的な自然環境の保全を目的とした「森林生態系保護地域」に指定、開発から保護へ林野行政を転換することになった。

■森再生へ新運動
 「100平方メートル運動」は買い取る土地の面積と寄金額を2次目標、3次目標と徐々に拡大していったが、同運動への参加者は途絶えることはなかった。運動は97年3月に終了した。20年間で4万9024人が約5億2000万円を募金し、運動対象地の約95%に当たる447.56ヘクタールを買い上げた。これらの成果は日本のナショナルトラスト運動の先駆けとして高く評価され、全国の自然保護活動に大きな影響を与えている。

 同年6月からは、これまでの運動の精神を引き継ぐ新運動「100平方メートル運動の森・トラスト」がスタートした。買収した土地約450ヘクタールと、隣接する既存町有地約490ヘクタールの計約940ヘクタールを5区画に分け、多様な樹木を育ててシマフクロウなどの野生生物がすめる森の再生を目指す計画。森の整備費用に充てる一口5000円の寄付を全国に呼び掛けており、2003年3月末までに約7700人から約1億円が寄せられた。厳しい環境やエゾシカの食害などで植林は困難な作業を伴っているが、一度失った知床の自然を取り戻すため息の長い活動が現在も休むことなく続けられている。
(北海道新聞メディア局データベース部 堀井英樹)



「しれとこ100平方メートル運動」年表

1977年 1月 新聞に掲載された「英国のナショナルトラスト運動」の紹介記事を読んだ網走管内斜里町の藤谷豊町長が、同町岩尾別地区の開拓跡地を寄金で買い取ることを発案
  2月 斜里町が「しれとこ100平方メートル運動」の構想を発表。「しれとこで夢を買いませんか」をキャッチフレーズに、全国からの寄金で同町岩尾別地区の開拓跡地を買い取る道内初のトラスト運動に着手
  3月 24日から同運動がスタート。最初の参加者は新婚旅行で知床を訪れた京都府舞鶴市の夫婦
  9月 第1回記念植樹祭を開催
1979年 6月 運動の提唱者で、同年4月に斜里町長を退任した藤谷豊氏が環境庁の環境保全功労者表彰を受ける
1980年 10月 第1次目標額を達成(募金額約9600万円)
  12月 運動参加者が1万人を突破
1984年 6月 しれとこ百平方メートル運動推進本部が、環境保全功労者として表彰を受ける
  9月 運動参加者が2万人を突破
1987年 5月 しれとこ100平方メートル運動ハウスが完成。運動参加者全員の名札を掲示
1990年 12月 第2次目標額を達成(募金額約2億8150万円)
1995年 2月 100平方メートル運動が第17回山本有三記念「郷土文化賞」に決まる
1997年 3月 募金が目標額に達し運動が終了。4万9024人から約5億2000万円が集まり、対象予定地の約95%に当たる447.56ヘクタールの離農跡地を買い上げた
  6月 「しれとこ100平方メートル運動」を引き継ぐ「100平方メートル運動の森・トラスト」がスタート

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